労災保険を使用することで得られるメリットと、考えられるデメリットについて
労災保険とは何か
労災保険とは、労災事故にあってしまった場合に、労働者に対してお金が給付される仕組みのことです。
業務中に発生した事故によって怪我などを負ってしまった場合は、多くの場合、労災保険を使って、給付を受けることができます。
しかし、労災保険を使用するためには、申請が必要です。同制度は、日常的に触れるものではないので、申請の方法、受け取ることができる金額、保険を使うことによるデメリットについて、不安を感じる方が多いと思います。
そこで、本記事では、上記の不安を解消すべく、労災保険を使用することによるメリット・デメリットについて解説します。
結論
結論としては、労災保険は使うことによるデメリットがほぼなく、経済的な観点からメリットが非常に多く、ぜひ使うべきである制度であるといえます。
以下では、その理由を説明します。
労災保険を使用するメリット
労災保険を使用することで、補償を受けることができる
労災認定がされた際、労災保険制度により受けられる給付には、以下のように様々な種類のものがあります。
①療養(補償)給付
療養(補償)給付は、怪我をしてしまったり病気にかかってしまったりした際の治療費を給付するものです。
診察費用、検査費用、画像撮影費用、薬剤料、処置費用、手術費用、入院費用等が対象となります。この給付は、病院に対して直接給付され労災にあってしまった人の窓口負担がなくなるという形で実現することが可能です。
②休業(補償)給付
休業(補償)給付とは、労災事故によって働けなくなってしまった期間の給料を補填する役割を持つ給付です。
具体的には、療養中で休業している期間の4日目から支給が開始されます。給付される金額は、1日につき、給付基礎日額の6割が支給されます。ただし、休業の必要性が認められ、かつ、実際に休業していることが条件となります。
③障害(補償)給付
障害(補償)給付とは、労災事故により後遺障害が残存したと認められた場合に、その残存した後遺障害の程度に応じて給付される性質のお金です。
障害(補償)給付の給付額を判断する基準は、定型的なものとなっており、後遺障害の程度に応じた給付が受けられます。
後遺障害の程度は1級~14級に分類されており、1級から順に重いものとなっています。
障害(補償)給付は、一時金と年金の二種類に分かれており、8級~14級の場合は一時金の給付のみが、1級~7級の場合は年金の給付が受けられます。
治療費の窓口負担がなくなる
労災保険を使用した場合、先に述べた療養給付の制度が存在するため、労災によって負った障害の治療に必要な費用は、自己負担をする必要がありません。
もっとも、注意しなければならない点があり、原則として療養給付を受けるためには、労働者災害補償保険法で規定された指定病院等を受診する必要があります。
労災保険の適用範囲が広い
労災保険が使用できるタイミングとして考えられるのは、業務中に生じた事故である業務災害によって傷害等を負った場合や、通勤途中に生じた事故である通勤災害によって傷害等を負ってしまった場合です。
詳しく説明すると、労災の認定を受けるには、労働者の負傷・疾病などが、「業務上の事由」(労働者災害補償保険法1条)によって発生しているといえることが必要です。「業務上の事由」といえるかどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要素が含まれている事故であったかどうかによって決まります。
まず、労働者が労働関係の下にあった場合に起きた災害であれば、「業務遂行性」の要素があると判断されます。次に、業務遂行性があることを前提として、業務と負傷の間に因果関係があるといえるならば、「業務起因性」の要素があると判断されます。
上記のように、労災認定を受けるために要求される要件は、それほど厳しいというわけではなく、広く補償が受けられることが分かります。
なお、複数の会社で働いている方の場合、複数の事業場を総合的に考慮して要件を満たすか否かを判断することとなっています。必ずしもそれぞれの会社単独で要件を充足することが要求されるわけではないことが、直近の法改正(※)によって定められましたので、労災認定を受けやすくなったといえます。
※全ての会社の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災認定の判断をするようになります。施行日(令和2年9月1日)以降に発生した、けがや病気が対象です。
過失割合の影響を受けない
交通事故の話で「過失割合」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思われます。法律の考え方として「過失割合」という考え方があります。この考え方は、損害賠償の場面でよく用いられます。加害者(労災でいうと会社)と被害者(労災でいうと労働者)が、労災事故の発生につきお互いに過失があったならば、賠償金を減らすことで、公平な責任分担ができるように調整しようというものです。会社の少しのミスと、労働者の著しい不注意がかみ合って発生した事故について、会社が全部の責任を負うのは公平ではないという考え方です。
しかし、労災保険は、労働者が困ることのないように、最低限の補償を充実させようという目的のもと生まれた制度です。そのため、労災保険の世界では、労働者の過失が大きいからと言って、補償金額が減らされてしまうといったことがないようになっています。
したがって、労働者の過失割合が大きいと考えられる事故については、労災保険を利用するべきであるといえます。
労災保険を使用することによるデメリット
これまでは、労災保険を使用することで得られるメリットを見てきました。
一方で、デメリットはないのかと気にされる方も多いと思います。結論から述べますと、申請の手間が少しかかる程度であり、ほかのデメリットはないといえます。
人事評価が低下するおそれ
たとえば、労災保険を使用する際には、会社にそのことを告げて、手続きを会社に協力してもらいながら行っていくこととなりますから、会社に面倒をかけ、人事評価等が下がってしまうのではないかと気にされる方もいらっしゃるかと思います。
しかし、労災保険を使用することは、労働者に認められた権利であり、会社もその権利を使用させるため労災保険に加入する法的な義務があります。したがって、この権利行使を理由として労働者の評価を下げることは、違法な不当評価となり、法律上許されていません。
他の補償・賠償との関係
労災保険を使用することによって、会社への損害賠償の道がなくなったり、自己加入の保険が使用できなくなったりすることを心配される方もいらっしゃるかと思います。
確かに、補償範囲が全く同じ部分について「二重取り」はできませんが、それは不当に高額な補償を得ることはできないという当たり前の話ですので、「デメリット」にはあたりません。
さらに、労災保険を使用したからと言って、会社に損害賠償請求ができなくなるということはありません。別記事で解説していますが、労災保険の申請だけでは、会社からの「慰謝料」の支払いを求めたことにはなりませんから、別途会社への慰謝料請求が可能なケースでは、会社に対する請求を行うということがあり得ます。
労災保険の使用によって、この請求が禁止されるということはないので、ご安心ください。
まとめ
この記事では、労災保険使用のメリット・デメリットについて解説しました。内容は、以下の通りです。
①労災保険を使用することには、経済的メリットが多い
②労災保険を使用することによるデメリットはほとんどない(特に、労働者の過失が大きい事案では、使用するべきである)
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