精神疾患の労災の認定基準

精神疾患で労災認定はされるの?

平成23年度以降、仕事によるストレス によるストレス(業務による心理的負荷)が関係した精神障害に ついての労災請求が増え、その認定(発病した精神障害が業務上のものと認められるかの判断)を迅速に行うことが求められてきました。

ここでは厚生労働省が提示している精神疾患による労災認定の基準をお伝えいたします。

精神疾患で労災認定された事例

事例①
「新規事業の担当となった」ことにより、「適応障害」を発病したとして認定された事例

Bさんは、大学卒業後、デジタル通信関連会社に設計技師として勤務していたところ、3年目にプロジェクトリーダーに昇格し、新たな分野の商品開発に従事することとなった。しかし、同社にとって初めての技術が多く、設計は難航し、Bさんの帰宅は翌日の午前2時頃に及ぶこともあり、以後、会社から特段の支援もないまま1ヶ月当たりの時間外労働時間数は90~120時間で推移した。
新プロジェクトに従事してから約4か月後、抑うつ気分、食欲低下といった症状が生じ、心療内科を受診したところ「適応障害」と診断された。
<判断>
①新たな分野の商品開発のプロジェクトリーダーとなったことは、別表1の具体的出来事10「新規業務の担当になった、会社の立て直しの担当になった」に該当するが、失敗した場合に大幅な業績悪化につながるものではなかったことから、心理的負荷「中」の具体例である「新規事業等の担当になった」に合致し、さらに、この出来事後に恒常的な長時間労働も認められることから、総合評価は「強」と判断される。
②発病直前に妻が交通事故で軽傷を負う出来事があったが、その他に業務以外の心理的負荷、個体側要因はいずれも顕著なものはなかった。

①②より、Bさんは労災認定された

事例②
「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」ことにより、「うつ病」を発症したとして認定された事例

Aさんは、総合衣料販売店に営業職として勤務していたところ、異動して係長に昇格し、主に新規顧客の開拓などに従事することとなった。新部署の上司はAさんに対して連日のように叱責を繰り返し、その際には、「辞めてしまえ」「死ね」といった発言や書類を投げつけるなどの行為を伴うことも度々あった。
係長に昇格してから3ヶ月後、抑うつ気分、睡眠障害などの症状が生じ、精神科を受診したところ「うつ病」と診断された。

<判断>
①上司のAさんに対する言動には、人格や人間性を否定するようなものが含まれており、それが執拗に行われている状況も認められることから、別表1の具体的出来事29「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の心理的負荷「強」の具体例である「部下に対する上司の言動が、業務範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」に合致し、総合評価は「強」と判断される。
②業務以外の心理的負荷、個体側要因はいずれも顕著なものはなかった。

①②より、Aさんは労災認定された。

精神疾患の発病の考え方

精神障害は、外部からのストレス(仕事によるストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。

発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。

仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が強かった場合でも、同時に私生活でのストレス(業務以外の心理的負荷)が強かったり、その人の既往症やアルコール 依存など(個
体側要因)が関係している場合には、どれが発病の原因なのかを医学的に慎重に判断する必要があります。

精神障害の労災認定要件

労災認定のための要件は次のとおりです。

1 認定基準対象精神障害を発病
② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
3 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
「業務による強い心理的負荷が認められる」とは、業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたことをいいます。

心理的負荷の強度は、精神障害を発病した労働者がその出来事とその後の状況を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価します。「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験などが類似する人をいいます。

労災認定になるための2つのチェック項目

① 認定基準の対象となる精神障害か?
② 業務による強い心理的負荷が認められるか?
ここでは2つのチェック項目をお伝えいたします。

① 認定基準の対象となる精神障害か?

認定基準の対象となる精神障害は、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害であって 認知症や頭部外傷などによる障害(F0)およびアルコールや薬物による障害(F1)は除きます。

業務に関連して発病する可能性のある精神障害の代表的なものは、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)などです

ICD-10 第5章「精神および行動の障害」分類

分類コード 疾病の種類
F0 症状性を含む器質性精神障害
F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害
F2 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
F3 気分(感情)障害
F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害
F7 精神遅滞(知的障害)
F8 心理的発達の障害
F9 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害

② 業務による強い心理的負荷が認められるか?

労働基準監督署の調査に基づき、発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事
について、別表1「業務による心理的負荷評価表」(P.5~P.9)により「強」と評価さ
れる場合、認定要件の②を満たします。
新しい認定基準では、出来事と出来事後を一連のものとして総合評価を行います。具体
的な評価手順は、次のとおりです。

1.「特別な出来事」に該当する出来事がある場合

別表1の「特別な出来事」に該当する出来事が認められた場合には、心理的負荷の総合
評価を「強」とします。

2.「特別な出来事」に該当する出来事がない場合

以下の手順により心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と評価します。

(1)「具体的出来事」への当てはめ

業務による出来事が、別表1の「具体的出来事」のどれに当てはまるか、あるいは近いかを判断します。
なお、別表1では、「具体的出来事」ごとにその平均的な心理的負荷の強度を、強い方から「Ⅲ」「Ⅱ」「Ⅰ」と示しています。

(2)出来事ごとの心理的負荷の総合評価

当てはめた「具体的出来事」の欄に示されている具体例の内容に、事実関係が合致する場合には、その強度で評価します。
事実関係が具体例に合致しない場合には、「心理的負荷の総合評価の視点」の欄に示す事項を考慮し、個々の事案ごとに評価します。

(3)出来事が複数ある場合の全体評価

①複数の出来事が関連して生じた場合には、その全体を一つの出来事として評価します。原則として最初の出来事を具体的出来事として別表1に当てはめ、関連して生じたそれぞれの出来事は出来事後の状況とみなし、全体の評価をします。
② 関連しない出来事が複数生じた場合には、出来事の数、それぞれの出来事の内容、
時間的な近接の程度を考慮して全体の評価をします(下の図を参照)。

長時間労働の扱い・何時間働いたら長時間労働なの?

長時間労働がある場合の評価方法
長時間労働に従事することも精神障害発病の原因となり得ることから、長時間労働を次の通り3通りの視点から評価します。

①「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」
発病直前の極めて長い労働時間を評価します。
【「強」になる例】
・発病直前の1ヶ月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合
・発病直前の3週刊におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合

②「出来事」としての長時間労働
発病前の1ヶ月から3ヶ月間の長時間労働を出来事として評価します。
【「強」になる例】
・発病直前の2か月間連続して1月あたりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
・発病直前の3か月間連続して1月あたりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合

③他の出来事と関連した長時間労働
出来事が発生した前や後に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合、心理的負荷の強度を修正する要素として評価します。
【「強」になる例】
・転勤して新たな事業に従事し、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合

上記の時間外労働時間数は目安であり、この基準に至らない場合でも、心理的負荷を「強」と判断することがあります。
※ここでの「時間数労働」は、週40時間を超える労働時間をいいます。

パワハラ・セクハラはどう扱うの?

評価機関の特例
認定基準では、発病前おおむね6ヶ月の間に怒った出来事について評価します。ただし、いじめやセクシャルハラスメントのように、出来事が繰り返されるものについては、発病の6ヶ月よりも前にそれが始まり、発病まで継続していたときは、それが始まった時点からの心理的負荷を評価します。