Q:通勤中に事故にあってしまったらどうすればいいの?【労災に強い弁護士が解説!】

A:労働災害によって傷害を負うことことになってしまった場合は、労災保険からの給付が受けられるほか、治療費・後遺障害慰謝料を受け取れる可能性があります。

労働災害とは、典型的には、職場で仕事をしているときに、事故によって傷害を負ってしまう場合が想定されていると思います。では、通勤中たまたま事故にあってしまった場合はどうなるのでしょうか。

また、交通事故にあってしまったときは、通常は保険会社に連絡するはずですが、保険会社に連絡してしまうと労災からの給付の道は閉ざされてしまうのか、労災と自賠責との関係はどうなっているのかなど、一般の方にとっては様々な疑問があることと思います。

そこで、本記事では、通勤中に事故が発生した場合、労災認定や損害賠償がどのようになっているのかを解説いたします。

労災・自動車保険(自賠責・任意保険)について、それぞれの特徴

労災保険

労災保険(労働者災害補償保険)とは、労災事故にあってしまった場合に、労働者に対してお金が給付される仕組みのことです。業務中・通勤中に発生した事故によって、怪我などを負ってしまった場合は、多くの場合、労災保険を使って、給付を受けることができます。

車に乗って通勤中に追突されてケガをしたり、バイク・自転車で通勤中に転倒したりして傷害を負った場合などは、労災保険の対象となります。また、業務・通勤と発生に因果関係が認められる限り、精神的な疾病も、労災保険の対象となります。

なお、労災保険は、労働者である限り強制的に加入している保険制度です。他の社会保険と異なり、労災保険の保険料は、事業主(会社や雇い主)が全額を負担する決まりとなっています。

労災認定がされた際、労災保険制度により受けられる給付には、以下のように様々な種類のものがあります。

療養(補償)給付

療養(補償)給付は、怪我をしてしまったり病気にかかってしまったりした際の治療費を給付するものです。

診察費用、検査費用、画像撮影費用、薬剤料、処置費用、手術費用、入院費用等が対象となります。この給付は、病院に対して直接給付される、すなわち労災にあってしまった人の窓口負担がなくなるという形で実現されます。

休業(補償)給付

休業(補償)給付とは、労災事故によって働けなくなってしまった期間の給料を補填する役割を持つ給付です。

具体的には、療養中で休業している期間の4日目から支給が開始されます。給付される金額は、1日につき、給付基礎日額の6割が支給されます。ただし、休業の必要性が認められ、かつ、実際に休業していることが条件となります。

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、労災事故により後遺障害が残存したと認められた場合に、その残存した後遺障害の程度に応じて給付される性質のお金です。

障害(補償)給付の給付額を判断する基準は、定型的なものとなっており、後遺障害の程度に応じた給付が受けられます。
後遺障害の程度は1級~14級に分類されており、1級から順に重いものとなっています。
障害(補償)給付は、一時金と年金の二種類に分かれており、8級~14級の場合は一時金の給付のみが、1級~7級の場合は年金の給付が受けられます。

自動車保険(任意保険・自賠責保険)

いわゆる自動車保険とは、任意保険・自賠責保険の2種類が存在します。自賠責保険とは、自動車所有者全員に契約加入が義務付けられている強制保険であり、通常は自動車登録時・車検時に前払いで加入しています。一方、任意保険とは、強制加入ではないものの、自賠責保険を超える充実した補償が受けられるプランもあるため、多くの人が加入している自動車保険になります。(35の保険会社が会員として加盟する損害保険料率算出機構による2019年度版の「自動車保険の概況」によると2019年3月末時点の任意保険の加入率(普及率)は乗用車・2輪車・商用車など、すべての車両を含めた任意保険の普及率は、対人賠償において74.8%、対物賠償において74.9%とされています。)

自賠責保険について、もう少し詳しく解説

自賠責保険とは、自動車事故の被害者救済を目的として、強制加入が義務付けられることとなった制度です。もっとも、保険料は廉価であり、最低保証の仕組みを担うに過ぎないので、事故によって生じた損害の「人身傷害」部分に限って、その一部が補填されます。物損事故については、対象外となります。

任意保険について、もう少し詳しく解説

自賠責保険と異なり、任意保険は、自動車の運転を行うことによって生じる様々なリスクに備え、補償範囲も充実したものが多い保険商品です。

自賠責保険に比べ保険料は割高となる場合が多いですが、そもそも補償範囲が違いますし、相手に生じた損害だけではなく、加入者自身に生じた損害についてもカバーすることができるので、多くの人が加入しています。

通勤中に交通事故にあってしまった場合、どの保険から補償を受けるべきか

前項では、さまざまな保険制度について解説しました。そして、通勤中に交通事故にあった場合、どの保険によっても補償を受けることができます。もっとも、同じ損害について補償の二重取りとなるような請求はできません。

その結果、基本的にはどの制度から用いても補償総額は変わらないのですが、事故の原因について労働者自身の過失割合が大きい場合は、労災保険を使用する方が有利と言えます。なぜかというと、任意保険や自賠責の世界では、加害者と被害者(労災でいうと労働者)が、労災事故の発生につきお互いに過失があったならば、賠償金を減らすことで、公平な責任分担ができるように調整しようという「過失割合・過失相殺」という考え方があるからです(自賠責保険の場合には重過失の場合のみ減額)。

事故の発生につき労働者側に過失があるときは、任意保険・自賠責保険の支払額が減額される場合があります。しかし、労災保険というものは、労働者が困ることのないように、最低限の補償を充実させようという目的のもと生まれた制度です。そのため、労災保険の世界では、労働者の過失が大きいからと言って、補償金額が減らされてしまうといったことがないようになっています。

したがって、労働者の過失割合が大きいと考えられる事故については、労災保険を利用するべきであるといえます。

なお、労災保険を使用する場合は、治療にあたって健康保険を使うことができません。そのほか、自賠責保険には支払い上限があったり、労災保険からは慰謝料の支払いがなかったり、いくつか注意点はありますが、心配であれば専門家(弁護士)に問い合わせることが良いでしょう。

どんなときのどんな事故が通勤災害と認められるのか

傷害が労働災害によるものであると認定されるためには、労働者の負傷・疾病などが、「業務上の事由」や「通勤」(労働者災害補償保険法1条)によって発生しているといえることが必要です。「業務上の事由」といえるかどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要素が含まれている事故であったかどうかによって決まります。

では、「通勤」によって、といえるためには、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか。

「通勤」とは

「通勤」とは、労働者が、事故の起きた当日に就業する予定だったか現実に就業していたことを前提として、「住居と就業場所の往復」「複数の仕事場間の移動」「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」のいずれかに該当する移動であって、方法・経路が合理的であるものをいいます。

「住居」とは、労働者が実際に日常生活を送っている家屋等です。

「就業場所」とは、業務を開始または終了する場所のことです。

「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」とは、転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復距離(片道60キロメートル以上等)を考慮して困難となったため住居を移転した労働者であって、一定のやむを得ない事情より、当該転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することとなった者の居住間の移動をいいます。また、配偶者がない場合の子との別居、並びに配偶者及び子がない場合の父母又は親族(要介護状態にあり、かつ、当該労働者が介護していた父母又は親族に限る。)との別居についても同様に取扱います。

合理的な方法・経路によらない移動や、移動の中断があった場合は、その逸脱や中断が日常生活に不可欠なもので、やむを得ない事由にあたり、最小限のものでない限り、逸脱・中断後の移動は「通勤」になりません。

「通勤」と認められない例

例えば、以下の例では、「通勤」とは認められません。

①会社に行く途中、子供を保育園に預けようと寄り道したところ、事故にあった
→寄り道をした時点で経路が合理的でなく、逸脱がやむを得ないとも言えない

②会社帰りに飲食店に立ち寄った後、事故にあった
→移動の中断がやむを得ないとは言えない

労災認定のための申請方法

労災の認定は、一次的には、労災保険制度の中で行われます。したがって、労災保険給付を担う労働基準監督署へ、申請を行うことになります。どの労働基準監督署かというと、会社の所在地を管轄する労働基準監督署になります。

申請についてのルールは、厚生労働省のホームページで詳しく説明されています。
>>厚生労働省のホームページはこちらから

まとめ

本記事では、通勤中のいかなる事故が通勤災害として労災認定されるのか、その手続きはどのように行われるのか、自動車保険との兼ね合いはどうなっているかを解説しました。

ここまで見てきた通り、労災制度は、その申請も含めてやや複雑な仕組みとなっています。労働災害にあってしまった方が、ケガやストレスを背負ったまま自ら賠償請求を行うということは、非常に大変です。

そこで、労災申請や保険の使用方法、請求について、専門家である弁護士に依頼するということが考えられます。弁護士は労働災害の知識・経験が共に豊富ですから、効率よく労災申請・賠償請求を進めることができます。その結果、ご自身で手続きを行うより、簡単に保険金・賠償金を受け取ることが期待できます。

通勤災害による労災保険の申請、保険金・賠償請求を検討する際は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

ご相談は、電話メールLINEでも可能で、いずれも無料です。