リモートワーク・在宅勤務・テレワーク中の労働災害はあり得るのか?【弁護士が解説】

はじめに

リモートワーク・在宅勤務・テレワークなど、その呼び名は様々ですが、昨今のコロナウィルス対策として、数年前から、会社に出勤せず自宅で勤務するという勤務形態が多くなりました。
現在では、このような働き方が、すっかり定着した世の中になりました。

リモートワーク・在宅勤務・テレワークでは、出勤時間の無駄がなくなったり、家事や子育てをしながら仕事をすることができたりするなど、多くのメリットがあります。
一方、職場にいないことによるデメリットも数多くあります。多くの場合、そのデメリットは職場内でのみ使用可能な紙媒体資料等をすぐに確認することができないなどの「不便さ」ということに尽きると思います。このようなテレワークですが、「労災」という観点から考えたことは一般的にあまりないかもしれません。

「労災」と聞くと、工場のような職場で事故にあってしまうことを連想される方が多く、リモートワーク・在宅勤務・テレワークと労災は無縁ではないか?と考える方が多数だからです。

しかし、業務中であれば、リモートワーク・在宅勤務・テレワークでも労災の条件を満たす事故というものが考えられます。家の中でも、座り仕事が続き腰痛になる等、傷害を負ってしまうケースは少なからず想定されます。

本記事では、弁護士が、リモートワーク・在宅勤務・テレワークと労災の関係について、詳しく解説します。

「労災」が認められる条件

労災には、通勤災害と業務災害がありますが、リモートワーク・在宅勤務・テレワークで問題となるのは、主に「業務災害」です。

「業務災害」の定義は、労働者災害補償保険法(いわゆる労災保険法)の第7条1項1号に書かれています。これによれば、業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、傷害又は死亡」をいうことになります。

では、どのような場合において、どのような事故が、「業務上の」災害と認められるのでしょうか。

「業務上」とは

傷害が労働災害によるものであると認定されるためには、労働者の負傷・疾病などが、「業務上の事由」によって発生しているといえることが必要です。

「業務上の事由」といえるかどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要素が含まれている事故であったかどうかによって決まります。

「業務遂行性」「業務起因性」とは

まず、労働者が労働関係の下にあった場合に起きた災害であれば、「業務遂行性」の要素があると判断されます。要するに、従業員として仕事中の事故でないといけないということです。

次に、業務遂行性があることを前提として、業務と負傷の間に因果関係があるといえるならば、「業務起因性」の要素があると判断されます。業務に関係する作業をしている際に傷を負ってしまったのであれば、業務と負傷の間に因果関係があると判断されることが通常です。一方、業務中、業務とは無関係に行っていた私的な行為によって傷害を負ったのであれば、因果関係が否定され、「業務起因性」の要素がないと判断されます。

テレワークと私的な行為

上記でみたように、テレワーク中でも、業務に関係する作業中の事故であれば、「業務起因性」が肯定されます。もっとも、テレワークでは、先に述べたメリットにあるように、自宅内で仕事をするという状況にあるため家事や子育て等を行っているような状況が想定でき、このような時間での事故は、「業務起因性」が否定されることになります。もちろん、休憩時間中お昼を食べに行くとき等に起きた事故・傷害についても、「業務起因性」は否定されるでしょう。

では、「業務起因性」があることを、どのように示せばよいのでしょうか。会社としては従業員をずっと監視しているわけではありませんから、業務に関係する作業中に事故にあったことを示すには、仕事の中断・再開の報告をしっかりしておくことが良いでしょう。また、会社から定められた執務場所のルールがあれば、遵守することが大切です。会社から認められていない執務場所であるカフェ等での執務中の事故は、業務起因性が否定されかねません。

万が一の際、業務中の事故であることを示すため、可能な限り執務時間・場所・内容を報告・記録することが、良い方法と言えます。

リモートワーク・在宅勤務・テレワーク中の労災が認められたら

リモートワーク・在宅勤務・テレワーク中の労働災害によって傷害等を負うことになってしまった場合は、労災保険からの給付が受けられるほか、治療費・後遺障害慰謝料を受け取れる可能性があります。

労災の認定方法

労災保険からの給付を受けるには、労災認定が必要です。労災の認定は、一次的には、労災保険制度の中で行われます。したがって、労災保険給付を担う労働基準監督署へ、申請を行うことになります。どの労働基準監督署かというと、会社の所在地を管轄する労働基準監督署になります。

申請についてのルールは、厚生労働省のホームページで詳しく説明されています。

厚生労働省のホームページはこちら

労災保険から受け取れる給付

労災認定がされた際、労災保険制度により受けられる給付には、以下のように様々な種類のものがあります。

療養(補償)給付

療養(補償)給付は、労災によって、怪我をしてしまったり病気にかかってしまったりした際の治療費を給付するものです。

診察費用、検査費用、画像撮影費用、薬剤料、処置費用、手術費用、入院費用等が対象となります。この給付は、病院に対して直接給付される、すなわち労災にあってしまった人の窓口負担がなくなるという形で実現可能です。

休業(補償)給付

休業(補償)給付とは、労災事故によって働けなくなってしまった期間の給料を補填する役割を持つ給付です。

具体的には、療養中で休業している期間の4日目から支給が開始されます。給付される金額は、1日につき、給付基礎日額の6割が支給されます。ただし、休業の必要性が認められ、かつ、実際に休業していることが条件となります。ただし、後述するように、通勤災害と業務災害で、待機期間(働けなくなってしまってから、はじめの3日間)について少し異なるルールがあります。

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、労災事故により後遺障害が残存したと認められた場合に、その残存した後遺障害の程度に応じて給付される性質のお金です。

障害(補償)給付の給付額を判断する基準は、定型的なものとなっており、後遺障害の程度に応じた給付が受けられます。

後遺障害の程度は1級~14級に分類されており、1級から順に重いものとなっています。

障害(補償)給付は、一時金と年金の二種類に分かれており、8級~14級の場合は一時金の給付のみが、1級~7級の場合は年金の給付が受けられます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。リモートワーク・在宅勤務・テレワーク中の労災が認められるかどうかは、事故にあってしまったタイミングが重要であることを解説しました。

しかし、上記解説では様々な専門用語が登場しました。労災は十分な知識がないと、その認定手続や給付申請に苦労することが多いものです。ご自身の事故について、「業務起因性」が肯定されるか、判断に迷う場合も多いでしょう。

さらに、リモートワーク・在宅勤務・テレワークは、最近になってようやく定着した仕組みですから、過去の十分な判例がそろっているとは言えず、明確な判断基準が固まっているともいえません。例のないことを1からご自身で行うというのは、勇気が必要でしょう。

そこで、労災事故にあってしまったと感じた際は、まず弁護士に相談することがひとつの良い手段と言えます。弁護士は、十分な知識を持つだけでなく、ご自身の代わりに面倒な手続や請求を行ってくれるため、心理的・身体的に多くのメリットがあります。弁護士に相談するという選択肢について、検討してみてはいかがでしょうか。

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