労働災害による骨折(仕事中・業務中の骨折)と補償・賠償

1.労働災害により骨折してしまったら

勤務中に骨折をしてしまうという事例は、以下のように様々なケースがあり少なくありません。
・新築住宅の屋根工事中に作業が終了し足場ではしごをばらしているとき靴底に泥がついていたため足を滑らせ地上に落下し骨折
・土木工事業において高所作業車から降りる際に足を滑らせて転倒し、左腕や左足首を骨折
・作業場で10L缶を両手に持って歩いている時に躓いて転倒し、持っていた10L缶がぶつかり、右肩の鎖骨を骨折
・床にこぼれた溶剤を拭き取った後に、靴底に付着していた溶剤で転倒し、右大腿骨頚部を骨折

骨折は、一般的にけがの中でも比較的重いものといえます。骨折と共に神経を傷つけてしまう場合もあり、そのような場合は、痛み・しびれが残存してしまったり、負傷個所を動かせる範囲が限定されてしまったり(可動域制限)いわゆる後遺障害として残存してしまうケースもあります。労働災害によって骨を折ってしまった場合は労災保険からの給付が受けられるほか、会社に対する請求によって後遺障害慰謝料を受け取れる可能性があります。
本記事では、骨折事故が発生した場合の、労災認定や損害賠償について解説いたします。

2.骨折が労働災害によるものと認定される流れ

⑴ 要件
骨折してしまったことが労働災害によるものであると認定されるためには、労働者の負傷・疾病などが、「業務上の事由」(労働者災害補償保険法1条)によって発生しているといえることが必要です。
では、「業務上の事由」といえるかどうかは、どのように判断するのでしょうか。これについては、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要素が含まれている事故であったかどうかによって決まります。

まず、労働者が労働関係の下にあった場合に起きた災害であれば、「業務遂行性」の要素があると判断されます。要するに、従業員として仕事中の事故でないといけないということです。判断に迷う例として、就業中にトイレに行く時間や、出張中仕事をしている時間が考えられますが、これらはいずれも業務遂行性の要素があると判断された裁判例があります。
次に、業務遂行性があることを前提として、業務と負傷の間に因果関係があるといえるならば、「業務起因性」の要素があると判断されます。業務に関係する作業をしている際に骨を折ってしまったのであれば、業務と負傷の間に因果関係があると判断されることが通常です。
一方、業務中、業務とは無関係に行っていた私的な行為によって傷害を負ったのであれば、因果関係が否定され、「業務起因性」の要素がないと判断されます。

⑵ 労災を認定する手続きの流れ
労災の認定は、一次的には、労災保険制度の中で行われます。したがって、労災保険給付を担う労働基準監督署へ、申請を行うことになります。
どの労働基準監督署かというと、会社の所在地を管轄する労働基準監督署になります。

申請についてのルールは、厚生労働省のホームページで詳しく説明されています。
>>厚生労働省のホームページはこちらから

3.労災認定がされた場合、労災保険から受けられる給付

労災認定がされた際、労災保険制度により受けられる給付には以下のようなものがあります。

⑴ 療養(補償)給付
療養(補償)給付は、怪我をしてしまったり病気にかかってしまった際の治療費を給付するものです。診察費用、検査費用、画像撮影費用、薬剤料、処置費用、手術費用、入院費用等が対象となります。この給付は、病院に対して直接給付される、すなわち労災にあってしまった人の窓口負担がなくなるという形で実現するのが原則です。

⑵ 休業(補償)給付
休業(補償)給付とは、労災事故によって働けなくなってしまった期間の給料を補填する役割を持つ給付です。具体的には、療養中で休業している期間の4日目から支給が開始されます。給付される金額は、1日につき、給付基礎日額の6割が支給されます。ただし、休業の必要性が認められ、かつ、実際に休業していることが条件となります。

⑶ 障害(補償)給付
障害(補償)給付とは、労災事故により後遺障害が残存したと認められた場合に、その残存した後遺障害の程度に応じて給付される性質のお金です。障害(補償)給付の給付額を判断する基準は、定型的なものとなっており、後遺障害の程度に応じた給付が受けられます。後遺障害の程度は1級~14級に分類されており、1級から順に重いものとなっています。障害(補償)給付は、一時金と年金の二種類に分かれており、8級~14級の場合は一時金の給付のみが、1級~7級の場合は年金の給付が受けられます。

4.労災保険以外からの損害賠償の可能性

⑴ 労災保険の役割
先に述べた労災保険は、労働者に対し国が最低限の補償を用意したものであって、労災の発生が会社や他の従業員によるものでないときも給付されるものである一方、損害のすべてを補填するのに十分な制度にはなっていません。

⑵ 会社に対する損害賠償
仮に、労働災害が会社や他の従業員の故意・過失によって生じたものである場合は、会社に対する損害賠償が可能となります。この損害賠償請求は、損害のすべてについて請求を行うことが可能です(ただし、労働者にも過失が認められる場合は、過失相殺と言って、損害のうち一定割合の賠償責任が控除される可能性があります。特に、転倒による骨折事案の場合には転倒の原因として労働者側の注意義務違反すなわち過失がなかったかどうか、ということが裁判所上の手続きの中で争点とされることも少なくありません)。労働災害が会社や他の従業員の故意・過失によって生じた場合というのは、法律用語でいえば、会社に不法行為責任または安全配慮義務違反が認められる場合をいいます。

⑶ 請求の方法
労働者が会社に対して上記損害賠償を請求する方法は、①自ら会社と交渉を行う、②弁護士に依頼して交渉・訴訟を行ってもらうというものが考えられます。①は、一見安価で手軽に済むように思えますが、自ら「会社に不法行為責任または安全配慮義務違反が認められる」ということを主張・立証し、損害賠償を請求するということのハードルは非常に高いです。具体的に適正な損害額も算定が難しいですし、どのような証拠を出せばいいのかも複雑です。会社によっては、労働者が交渉を申し出たところで、相手にしない場合もあるでしょう。
一方、②は、弁護士費用以上の見返りが得られるケースが多いと言えます。知識・経験が豊富な専門家が行う賠償請求は、損害額として適正な範囲かつ最大のラインが見えますし、立証活動も慣れています。また、会社としても、弁護士がつくことで弁護士の請求には法的根拠があることが明確になり、これに応じなければ訴訟などの法的手段に移行する可能性があるということが目に見えている以上は交渉のテーブルにつかざるを得ないこととなります。

5.まとめ

本記事では、労災によって骨折してしまった場合の補償・賠償問題について解説しました。

労災申請や賠償請求については、さまざまなルールやハードルがある一方、適切にこれを行使することができれば、損害を補うための賠償を受けることができます。
満足のいく賠償を受けるためにも、専門家に一度相談してみてはいかがでしょうか。

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