通勤災害と業務災害の違いとは?【弁護士が解説】

「通勤災害」と「業務災害」という言葉があります。どちらも、個人のプライベートではなく、仕事に関する時間に負ってしまったケガのことを指す言葉です。
両者は、いわゆる「労災」であるという点で共通しますが、どこからが「業務災害」でどこからが「通勤災害」なのか、その境界線や違いなどに疑問を持つ方も少なくないと思います。

そこで、本記事では、通勤災害と労働災害の違いがわかるよう、解説していきます。

「通勤災害」とは

「通勤災害」の定義は、労働者災害補償保険法(いわゆる労災保険法)の第7条1項3号に書かれています。これによれば、通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、傷害又は死亡」をいうことになります。

では、どんな場面の、どのような事故が、「通勤による」災害と認められるのでしょうか。

「通勤」とは

「通勤」とは、労働者が、事故の起きた当日に就業する予定だったか、現実に就業していたことを前提として、「住居と就業場所の往復」「複数の仕事場間の移動」「住居と就業場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動」のいずれかに該当する移動であって、方法・経路が合理的であるものをいいます。

「住居」とは、労働者が実際に日常生活を送っている家屋等です。

「就業場所」とは、業務を開始または終了する場所のことです。

「複数の仕事場間の移動」とは、複数の異なる事業場で働く労働者について、一つ目の就業の場所での勤務が終了した後に、もう二つ目の就業の場所へ向かう場合の移動をいいます。

合理的な方法・経路によらない移動や、移動の中断があった場合は、その逸脱や中断が日常生活に不可欠なもので、やむを得ない事由にあたり、最小限のものでない限り、逸脱・中断後の移動は「通勤」になりません。

「通勤」と認められない例

例えば、以下の例では、「通勤」とは認められません。

①会社に行く途中、子供を保育園に預けようと寄り道したところ、事故にあった

→寄り道をした時点で経路が合理的でなく、逸脱がやむを得ないとも言えない

②会社帰りに飲食店に立ち寄った後、事故にあった

→移動の中断がやむを得ないとは言えない

「業務災害」とは

「業務災害」の定義は、労働者災害補償保険法(いわゆる労災保険法)の第7条1項1号に書かれています。これによれば、業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、傷害又は死亡」をいうことになります。

では、どんなときのどんな事故が、「業務上の」災害と認められるのでしょうか。

「業務上」とは

傷害が労働災害によるものであると認定されるためには、労働者の負傷・疾病などが、「業務上の事由」によって発生しているといえることが必要です。「業務上の事由」といえるかどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要素が含まれている事故であったかどうかによって決まります。

「業務遂行性」「業務起因性」とは

まず、労働者が労働関係の下にあった場合に起きた災害であれば、「業務遂行性」の要素があると判断されます。要するに、従業員として仕事中の事故でないといけないということです。判断に迷う例として、就業中にトイレに行く時間や、出張中仕事をしている時間が考えられますが、これらはいずれも業務遂行性の要素があると判断されています。

次に、業務遂行性があることを前提として、業務と負傷の間に因果関係があるといえるならば、「業務起因性」の要素があると判断されます。業務に関係する作業をしている際に傷を負ってしまったのであれば、業務と負傷の間に因果関係があると判断されることが通常です。一方、業務中、業務とは無関係に行っていた私的な行為によって傷害を負ったのであれば、因果関係が否定され、「業務起因性」の要素がないと判断されます。

「通勤災害」と「業務災害」の共通点

「通勤災害」や「業務災害」といった労働災害によって傷害を負うことことになってしまった場合は、労災保険からの給付が受けられるほか、治療費・後遺障害慰謝料を受け取れる可能性があります。

なお、労災保険からの給付を受けるには、労災認定が必要です。労災の認定は、一次的には、労災保険制度の中で行われます。したがって、労災保険給付を担う労働基準監督署へ、申請を行うことになります。どの労働基準監督署かというと、会社の所在地を管轄する労働基準監督署になります。

申請についてのルールは、厚生労働省のホームページで詳しく説明されています。
>>厚生労働省のホームページはこちら

そして、労災認定がされた際、労災保険制度により受けられる給付には、以下のように様々な種類のものがあります。

療養(補償)給付

療養(補償)給付は、労災によって、怪我をしてしまったり病気にかかってしまったりした際の治療費を給付するものです。

診察費用、検査費用、画像撮影費用、薬剤料、処置費用、手術費用、入院費用等が対象となります。この給付は、病院に対して直接給付され、すなわち、労災にあってしまった人の窓口負担がなくなるという形で実現されることが可能です。

休業(補償)給付

休業(補償)給付とは、労災事故によって働けなくなってしまった期間の給料を補填する役割を持つ給付です。

具体的には、療養中で休業している期間の4日目から支給が開始されます。給付される金額は、1日につき、給付基礎日額の6割が支給されます。ただし、休業の必要性が認められ、かつ、実際に休業していることが条件となります。ただし、後述するように、通勤災害と業務災害で、待機期間(働けなくなってしまってから、はじめの3日間)について少し異なるルールがあります。

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、労災事故により後遺障害が残存したと認められた場合に、その残存した後遺障害の程度に応じて給付される性質のお金です。

障害(補償)給付の給付額を判断する基準は、定型的なものとなっており、後遺障害の程度に応じた給付が受けられます。

後遺障害の程度は1級~14級に分類されており、1級から順に重いものとなっています。

障害(補償)給付は、一時金と年金の二種類に分かれており、8級~14級の場合は一時金の給付のみが、1級~7級の場合は年金の給付が受けられます。

双方の相違点

給付の名称が異なる

通勤災害についての保険給付は、労働基準法上の災害補償責任とは別のものとなっています。したがって、通勤災害について保険給付を受ける場合は、「補償」という言葉が使われません。

待機期間の休業補償の取り扱い

休業給付(補償)は、会社を休んだ日の第4日目から支給されますが、業務災害の場合は待機日の3日間について、事業主が労働基準法に基づく休業補償の義務を負います。しかし、通勤災害の場合、待機日について事業主に休業補償を支払う義務はないとされ、会社側の裁量とされています。

労基法上の解雇制限

労基法は、業務上の傷病により休業している期間及びその後30日間の解雇を禁じていますが、上述の通り通勤災害は業務上の傷病と扱われていません。したがって、通勤災害の場合には労基法上の解雇制限がありません。

一部負担金の徴収

通勤災害の場合、一部負担金として、原則200円が初回の休業給付の額から控除されることとなっています。業務災害であれば、このような控除はありません。

上記の違いが生じる理由

これまで見てきた通り、通勤災害のほうが業務災害に比べて不利な点がいくつかあります。この違いが生じる理由は、通勤災害については使用者に責任を問えないためです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。業務災害と通勤災害は、事故にあってしまったタイミングによって区別され、その補償範囲や給付の名称などに違いがあることを解説しました。業務災害か通勤災害かにかかわらず、労災は十分な知識がないと、その認定手続や給付申請に苦労することが多いものです。

そこで、労災事故にあってしまった際は、まず弁護士に相談することがひとつの良い手段と言えるでしょう。
弁護士は、十分な知識を持つだけでなく、ご自身の代わりに面倒な手続や請求を行ってくれるため、心理的・身体的に多くのメリットがあります。ぜひ、ご検討ください。

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